リノベーションで地域を変える つくりあげる 〜前編〜

九州職業能力開発大学校提供

 「自分の暮らしに身近な場所を、自分たちの手で変えられるとしたら、どんなふうにしたいだろう」
高校生のみなさんは、そんな問いを投げかけられたことはありますか。学校の教室や部活で使う部屋、近所の公民館、街を歩くときに見かける商店やカフェ……そこにある空間を、自分たちで思い描く理想に近づけることができたら。想像しただけで、ちょっとわくわくしませんか。

いま、建築の学びを深めている大学生の中には、実際に身近な建物を改修し、過ごしやすい場所や面白い場づくりをする活動――いわゆる“リノベーション”に挑戦している方々がいます。新築工事とちがい、“もともとある建物の良さをどれだけ活かせるか”という発想が必要になるのがリノベーションの面白いところ。そこに利用者の声を取り入れ、地域を巻き込みながら“ここならでは”の空間へと作り変えていくプロセスは、学生たちにとって学びと発見の連続です。

今回はそんなリノベーションを実際に体験している女子学生、安部さんと宮窪さんの二人にインタビューしました。とある地域コミュニティ施設を舞台に、設計だけではなく、アンケート作成からイベント企画、SNSでの情報発信など、建築の枠を超えた幅広い活動をしている彼女たち。将来「建築をやってみたい」「空間づくりに興味がある」という高校生はもちろん、「人と関わりながらアイデアを形にしてみたい」「人が喜ぶ仕組みを考える仕事をしてみたい」という人にとっても、参考になるエピソードがたくさん詰まっています。

まずは、二人が建築を志したきっかけから、リノベーションの現場で見えてきたやりがいや苦労、そしてこれからプロジェクトに参加する後輩たちに伝えたいメッセージまで。彼女たちの言葉を通して、未来のあなたを少し想像してみてください。

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かつての憧れを自分の手のなかに 

安部さんは高校生の時に経験した自宅の新築工事がきっかけで、建築の世界に興味を持ったそう。女性の建築士さんが設計を担当しており、打ち合わせのたびに家族の意見を丁寧にくみ取り、図面で提案していく様子に「すごい、かっこいい」と憧れを抱いたとのこと。「女性だってこんな風に家づくりに関わるんだ」とワクワクして、「いつか自分も建築士になりたい」と思い始めました。

一方、宮窪さんはもともと街歩きが好きで、ちょっと古い喫茶店や歴史のある建物に興味を持っていたそうです。さらにおじいさんが宮大工をしていたという家族の影響もあり、「建物をつくる仕事って面白そう」「自分も何かを建ててみたい」と、高校の終盤には進路を建築に定めます。「普段、何気なく目にしている建物がどうやってできているのか知りたい」という好奇心が、建築系の道へと彼女を導いてくれたのだとか。

そんな二人は、北九州市小倉南区に校舎を構える「九州職業能力開発大学校(通称ポリテクカレッジ)」の建築学科に進学。いまはゼミ活動の一環として、「大英産業株式会社」北九州市八幡東区にある地域コミュニティ施設「ココクル平野」のリノベーションプロジェクトに携わっています。

二人がいま中心となって進めているのは、学校のゼミ活動の一環として企画された地域コミュニティ施設「ココクル平野」のリノベーションプロジェクト”COCO RiNOVE“です。いまある建物をどう活かすか、どんなふうに生まれ変わらせるか。その計画立案から、実際の施工にいたるまでを学生の手で行う取り組みで、3ヵ年計画で始動した。

新築の場合はゼロから建物をつくることになりますが、リノベーションでは既存の建物を解体せずに活かします。そのため、古い部分と新しい部分をどのように融合させるか、“使える部分をどう残し、追加する設備をどう組み合わせるか”という工夫が必要。ゼミの先輩たちも過去に同じ施設の一部をリノベーションしていたらしく、「ここをこう変えてみたら、もっと過ごしやすくなるかも」といった発想力やアレンジ力が試される現場だといいます。

さらに、新築と違ってそこに住んでいる(あるいは利用している)人がすでにいるのもリノベーションの大きな特徴。学生たちは、その施設の利用者さんにヒアリングを行ったり、イベントで寄せられた意見を反映させたりするなど、人を巻き込む力が不可欠となります。

安部さんは「最初からうまくいったわけではなく、アンケートを置いてもなかなか見てもらえない、意見が集まらないなど、結構苦労しましたね。でも“本当に必要とされる空間”を考えるためには、絶対に利用者さんの声が必要でした」と振り返ります。

人の想いを聞く、伝える――そこにある壁

特に難しかったのは、幅広い年代の利用者さんから意見を集めること。地域コミュニティ施設なので、高齢者から子ども連れの家族まで、利用する人はさまざまです。

たとえば、車椅子を使っている方にとっては床の段差や手すりの位置が大事。しかし、小さな子ども連れの親御さんにとっては、子どもの遊び場が安全かどうかのほうが気になるポイント。アンケートを一括で配布するだけだと、それぞれの立場から見る“ここを直したい”や“これがあったら便利”という声が拾いきれず、意見がバラついてしまいます。

しかも安部さんいわく「アンケートをお願いしても、自由記述欄にはなかなか具体的なコメントを書いてもらえない。私たちが何者かという知名度も低いし、“学生がやってるんだね、頑張ってね”で終わってしまうことも多くて……」。

そこでメンバーたちが始めたのが、イベントへの出展やSNSでの情報発信でした。まちで開催される地域イベントにブースを出し、実際に来てくれた方に直接声をかけ、「ここって普段どんなふうに使っていますか?」などヒアリングを実施。SNSでもプロジェクトの進捗や制作物の写真、試作品のミニチュアなどを発信することで、「あ、この建物をこう変えるんだ」「こんな楽しいことやってるんだな」と興味を持ってもらう仕組みをつくっていったのです。

「わかりやすい伝え方」がないと、アイデアが伝わらない――そのことを強く実感した、と宮窪さんも言います。「建築用語を並べるだけだとチンプンカンプンだったりするので、パッと見てわかる図解やモデルを用意する必要がありました。プレゼン資料を作るときは、文字だけじゃなくイラストや写真を入れる。実際に触ってわかるようなサンプルや模型も準備し、完成後のイメージをみんなで想像しやすいように工夫しましたね」。

こうした取り組みは建築以外でも必ず活かせる能力。自分の考えを“どう伝えるか”を突き詰める力は、たとえば将来営業や企画に進んだときにも大きな武器になるはずです。

知ってもらうことの大切さ 大変さ

リノベーションとは直接関係なさそうに思える“イベント企画”ですが、実はこれこそがプロジェクトを動かすエンジンだったと二人は口をそろえます。

ある年のクリスマスシーズン、建物のエントランスにシンボルとなるツリーを設置しようと考えた彼女たちは、「ただの飾り付けではつまらない。もっと参加型にしたい」と、子どもたちが“願いの葉”を手づくりできるワークショップを開きました。「KiTAQWOOD」という大英産業株式会社が手がける、北九州産の木材ブランドを使用した木のボードに願い事や絵を書いてもらい、それをみんなで集めてシンボルツリーに飾る仕掛けです。

「これが大当たりでした。子どもだけじゃなくて、お父さんお母さん、大人の方まで立ち寄ってくださって、“こういうのがあると、わくわくしますね”とか“施設にもこんな飾りがあったら利用者さんも楽しいんじゃない?”なんて言葉をいただけたんです。SNSのフォロワーさんも増えて、一緒に盛り上げてくれる人がどんどん広がっていきましたね」と宮窪さん。

たしかに、建物が完成するのを“待つ”だけでは、途中経過や試行錯誤の様子は見えにくいものです。そこをイベントでオープンにして「みんなで一緒につくろうよ」と誘えるのは学生ならではのフットワークの軽さのおかげでもあるのでしょう。

「専門家としての正式な肩書はまだないけれど、逆にそれが強みになっている部分もあると思います。学生がやってるなら応援したい、気軽に参加してみようという空気を感じますし、失敗も含めて“試行錯誤中”なのを温かく見守ってもらえています」と安部さんは笑います。

(後半へ続く・・・)

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